過去に今日ほど 自分の能力に感謝した事はない。

目をあわせて幻影を見せれば
男は奇声をあげて情けない後姿をさらした。
助けた女に不信がられはしないか…なんて
この時のオレには全く考える余裕もなかった。
幸い、倒れたままのアイツに夢中で
こちらの事などまったく見てはいなかったらしいが。
そうだ…アイツ、大丈夫なのか?
もしこのまま目を覚まさなかったらどうしよう。
オレ、まだオマエに謝ってないよ。

「…う……」

目をあけたアイツを見た瞬間
オレの口から出たのは謝罪ではなく、
泣きわめくカッコ悪い声だった。

泣いたのなんて、久しぶりだった。
それからというもの
オレの生活は見る見る変化していった。


よーく思い返してみれば
はじめて出会ったあの日
あの男は微笑んでいたような気がする。

大人なんて信用しないと
拒み続けていたから
気がつかなかっただけで
あんなに欲しがっていた笑顔は
こんなに近くに あったのだ。
陽だまりは暖かいし、水はひんやりとする。
食べ物は美味いし、用意された布団は寝心地が良い。
一度受け入れてしまえば 世界は驚くほど単純だった。
突き放されるのが恐ろしくて、
まともに見ようとしなかっただけだったんだ。
…なあ、よっすぃー。
受け入れられるようになったのは
お前のおかげなんだぜ。
まっきー達とふざけあう日常も
学校に通う気になったのも
きっかけは、全部お前がくれたんだ。

お前のために返そう。
この借りを……